低空飛コウ

好きなものいろいろ。

【感想】舞台「SKIP」を観てきました。

ちょっと時間が経ってしまいましたが、深川麻衣さんの初主演舞台「SKIP」を観てきました。大好きな深川さんの舞台!決まった時は本当にうれしかったです。

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原作は北村薫先生の小説『スキップ』。元々好きな作品だったのでなおさらうれしかったです。主人公の真理子と深川さんのイメージがぴったりなんですよ。パンフレットを読むとキャスティングの第1候補が深川さんだったと分かって、ちゃんと見てくれている人がいるんだなと泣きそうになりました。


物語は17歳の真理子が学校から帰ってうたた寝をしている間に25年の月日を飛ばして、起きると42歳の世界になっていた…というもの。舞台では17歳の真理子と42歳の真理子の2人1役でこの不思議な状況を可視化しています。2人同時に出ていることが多いのに、最初から何も違和感なくちゃんと1人の真理子なんですよね。17歳の真理子が話すところと42歳の真理子が話すところの振り分け方もどう見えるのかよく考えられていてよかったなぁ。


舞台で話される言葉はほぼ原作で使われている言葉をそのまま使っていました。小説のセリフ以外の部分も役者さんが話す。全編通して話すスピードも早かったので言葉が怒涛のように降り注ぐ感覚。でもそれに圧倒されるというよりは、北村薫先生の清潔で美しい言葉で作られた世界に包まれていることに喜びを感じました。私が『スキップ』を読んだのはもう10年くらい前のことだったので、時折「あぁ、これは北村先生の言葉だ…」ってしみじみ思い出すこともあって何だか面白い体験でしたね。
あと、小道具の出し方とかセットの転換とか本当にキャスト全員で作り上げている舞台だなと感じたし、ほとんどの役者さんが何役もやっているけど最初それが分からないくらい別人だったりもして、「演劇」の楽しさを感じることができた舞台でもありました。


この舞台を見た後、改めて小説も読み直したのですが、10年前よりもいろいろな感情が分かるようになっている気がして。これが年齢を重ねるということなんだろうな。こういう体験をできるというのは幸せですね*1。導いてくれた深川さんに感謝です。


では、結末まで触れた感想を。


私が観たのは4月28日~30日の昼公演までの4公演。運良く申し込んだ公演全部当たりまして、4公演連続で観ることになりました。しかも席も良くて、前から3列目→17列目→最前列→15列目っていう。
前の方では役者さんが動く振動、声の圧力、細かい表情や仕草…たくさんのものを感じながら舞台の世界に入り込めたし、後ろの方では舞台全体を観られてより物語が分かったし。最前列の時には深川さんの匂いまで感じて、握手会のこと思い出して懐かしくもなりました。またあんな近くで深川さんに会えるなんて思ってなかったなぁ。


初めて舞台を観たときは最初の場面で何が行われているのか分かりませんでした。授業をしているけど、何を読み上げているかついていけない。1回目を観終わった後「2回目観たらあの部分の意味が分かってあぁ~!ってなりますよ」と言われていたのですが、本当に2回目を観たら「あぁ~!」ってなって楽しかったな。小説『スキップ』の冒頭部分の読み上げから、実際の登場人物のセリフへと自然に移行する。小説から舞台上の現実に世界が軽やかに変わっていく。
舞台の登場人物としての第一声が発せられてその人が振り返った瞬間、私の目の前にいきなり深川さんが現れました。そんなに近くにいると思ってなくて素直に驚いたのと、舞台にスッと立っている姿自体がうれしくて開始早々泣きそうになってしまいました。てか1回目の観劇は深川さんが目の前で演技していることにも物語の内容にも涙腺が刺激されまくってずっと涙を堪えている感じでしたね。


トーリーとしては原作の魅力を損なわずにきちんと2時間にまとめられていました。真理子が経験できなかったこと、失ってしまった時間を実感させるエピソードがしっかり選び取られていたと思います。文化祭で始まって、文化祭で締められているんだなとも改めて気づいたり。


舞台独特の演出である17歳の真理子と42歳の真理子の2人1役は本当によかったです。あんなにスッと入ってくるとは思わなかったな。心としての17歳と姿としての42歳。どちらが優先されるか考え抜かれてセリフが割り振られているなと感じました。42歳の真理子役の霧矢大夢さんはあんなに落ち着いているのにものすごくかわいらしくて、ちゃんと17歳の真理子でもありましたね。
舞台が終わってから、最初の高校時代の場面を42歳の真理子が眺めている意味はなんだろうと考えていました。本当であればあの場面にいる必要はないわけです。42歳になって最後の場面を過ぎてからの真理子が高校時代を懐かしく思い返しているということなのか、どんな年頃であっても1人の人間としてつながっているという象徴なのか…正解は分かりませんがいろいろ考えられて面白いですね。


ちょっと思ってたテンションと違うセリフもちらほらありましたが、短時間の舞台で分かりやすく見せるということを考えるとあれでよかったのかなとも思います。ただ、真理子の新田への恋心についてはもう少し見えていれば文化祭での新田の告白に対する答えがもっと違和感なく見れたのかなとは思いました。それにしても新田役の碓井将大さんはとてもさりげなく演技が抜群にうまいですね。歌っている場面でもすごく自然に声が力強くて目立っていたのでびっくりしました。これからも注目します!


舞台独特といえば里見の一人芝居の場面もよかったです*2。いやぁ、面白かったなぁ。里見役の大滝真実さんコメディエンヌとして最高。話の内容よく分かんないシュール系なんだけど、きっちり雰囲気を作って笑いを取れる。それにものすごく愛らしくて!*3ファンになりました。
あと、印象に残った役者さんで言うと美也子役の木村玲衣さんは若いのに貫禄と存在感があって素晴らしかったし、大滝・山尾役の長濱慎さんはいい奴感半端なくて、舞台を明るくしてくれてました。あのやんちゃで爽やかな笑顔にやられまくったよ。いい役者さんいっぱいいるなぁ。


最後の場面は何回観ても泣いてしまいました。一ノ瀬真理子は実体がなくなってしまったからこそ「一ノ瀬真理子」として「桜木真理子」の役割を果たすことで自分が世界に存在していると証明するしかなかったんですよね。すぐあの状況に適応して行動したというより、むしろ自分は「一ノ瀬真理子」なんだと懸命にもがいていたんだと思っています。だから最後、どうしようもない現実を受け入れるしかない切なさに真理子と一緒に自然と涙が流れました。周りのお客さんも結構泣いているのが分かりましたが、あの場面は年齢を重ねれば重ねるほど泣いてしまうんじゃないかなぁ。何かもう涙を止められない感じでした*4。でも、とても切なくても前向きで清々しい気持ちになって劇場を後にできる舞台でした。DVDも予約したのでまた見るのが楽しみです。


深川麻衣さんにとっては女優として初めての舞台。その一生懸命さと切実さがあの状況に置かれた17歳の真理子にとても合っていました。真っ直ぐで清潔で自分を持っていて芯が強い。いわゆる北村ヒロインに深川さんはぴったりなんですよね。本当に美しくてかわいらしかったなぁ。
『スキップ』の中で特に好きなセリフが「わたし、一ノ瀬真理子を愛しています」「きみのすらりとした心の向きは、とても綺麗に見える」の2つ。一ノ瀬真理子という人物をとてもよく表しているなと思うのですが、深川さんはちゃんとこのセリフがすんなり入ってくる存在として舞台に立っていました。


今回はマイクなしでの芝居だったので、声を大きく出そうと意識し過ぎて感情がうまく乗っていない部分もありましたけど、29日の夜公演からすごく良くなって!正直29日の昼公演の演技がイマイチだなと思っていたので、深川さんが進化する瞬間を見られた気がしてとてもうれしかったです。相手の芝居を受けて返す意識が強くなったのか声に感情が乗るようになったし、深川さん独特の茶目っ気を演技に出せるようになっていました。前に初森ベマーズのイベントで初めて深川さんの声を生で聞いた時、自然に出している声なのに他のメンバーよりも声に強さを感じたんですよね。元々の声がいいからこれからまだまだ良くなるだろうな。


そして、深川さんの演技でとても印象に残ったのは授業をしている場面。本当に上手いんですよ。とても心地よく言葉が心に届く。「先生」のちょっと理想が入った言葉でも素直にそうしてみようって前向きな気持ちになれる。それに加えてとてもかわいらしい!経験を積んだ役者さんでもこんな風に言葉を届けるのは難しいんじゃないかな。
これは深川さん天性の人柄があってこそだし、乃木坂でたくさんの年下の子たちと過ごしてきたことや握手会で幅広い世代の数え切れないほどの人たちに1対1で真摯に言葉を届けてきた経験のおかげなんだと思います*5。これは確実に役者としての深川さんの強み。それを初主演舞台で発見することができてうれしかったのでした。


深川さんはとても穏やかで優しいけど、自分のことについては客観的で厳しいし、負けず嫌いで自分の目標に対して貪欲に進んでいくところがある人。そういう部分を持ちながらとても素直に周りの意見を聞けるから着実に成長していけるんだろうな*6
今回、たくさんの先輩に囲まれながら主演として舞台に立てたことが今後の役者人生の大きな財産になるだろうし、何よりたくさんの刺激を受けて自分が変わっていく毎日は楽しかったんじゃないかなと思います。深川さんの初主演舞台、女優としての第一歩を見ることができたこと本当によかったです。これからの深川さんがますます楽しみになりました。
深川さん大好きだー!


-余談-
原作の小説『スキップ』を舞台の物販で購入したのですが、北村薫先生のサイン入りでした!先生のファンでもあるので、これも本当にうれしかったなぁ。ありがとうございます!
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*1:『スキップ』という物語を知ればなおさら。

*2:原作を読み返すと里見の芝居内容が結構重要だったりしたけど、そこまで掘り下げる時間がないから完全に笑いに振り切ったの上手い。

*3:何か動き方とか雰囲気がNMBのこのみんにとても似ていた。かわいい。

*4:そして書きながら思い出してまた泣いているという…(笑)

*5:小説でも真理子自身が「生まれた時から素敵な先生だった」なんて言われていたので、そこまで重なっているのが何だかうれしかったな。

*6:岡田達也さんのブログにも同じようなことが書かれていてとてもうれしかったです。