低空飛コウ

好きなものいろいろ。

【感想】舞台「墓場、女子高生」を観てきました。

乃木坂46による舞台「墓場、女子高生」(10月19日昼公演)を観に行ってきました。
かなり時間が経ってしまいましたが、つらつらと感想を書きます。

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今回あまり事前情報は入れずに舞台を観たこともあって、最初は久々に観る舞台のテンションに置いていかれそうに…。苦手なやつかもしれんと思って1歩引いて観てしまいましたが、中盤から物語の感覚をつかめてきてどんどん惹き込まれていきました。
バカバカしい笑いを入れ込みながら「生と死」という重く捉えがちなテーマをすぐ身近にあるものとして描いているところがとても好きだったな。死に向き合うということは生に向き合うということでもあるんですよね。真っ直ぐ素直にぶつかっていくみんなの姿がまぶしかったです。あんなに笑っていたのに終盤はずっと泣くのを堪えながら観ていました。


乃木坂メンバーの役柄はみんなハマってたなぁ。ちゃんとその子として生きていました。女子高生の頃の青春な感じとか女子グループ独特の雰囲気や関係性がよく出ていたと思います。「乃木坂46」というグループにいるということがいい感じに反映されたように見えました。パンフレットの座談会の様子からもそれがよく分かります。
乃木坂の子達はほんと物事に真摯すぎるくらい真摯に向き合うよね。そういうところに惹かれるんだろうな。


それではネタバレを含んだ感想を。


会場に入ってまず目に飛び込んできたのは迫力ある墓場のセット!
シアターGロッソのステージは横幅が狭いのですが、その分高さを活かせるセットが組まれていました。その大きさからセットの転換はないだろうと思ったので、縦に4段に分かれたこのセットだけでどんな世界を見せてくれるのかワクワクしながら待っていました。


1年前に自殺してしまった女子高生、日野陽子をめぐる物語。

「墓場」という暗い舞台にも関わらず、前半は明るすぎるくらいに明るいです。幽霊たちが歌い踊り、女子高生たちが墓場を走り回ってバカ騒ぎする。セットの構造を活かしていろんな場所に登場人物が現れるのがとても楽しかったな。ただ、コメディ要素が強くて下ネタもバンバン放り込まれるので、好みの分かれるところだと思います。私はちょっと置いていかれるところがありましたね(笑)
でも後半に入って「日野陽子はなぜ死んだのか?」という物語の核の部分に触れ始めてからはどんどん入り込んで観ることができました。


日野ちゃんは誰にも理由を言わずに自殺しています。それによって残された人たちがそれぞれ「自分のせいじゃないのか」と思い悩むことになり、ついには彼女を生き返らせてしまう…。それなのに彼女の口からその場にいる誰のせいでもなかったということを知るのです。

「みんなのせいで死ななきゃいけないほど、仲良くはなかったよ」

過去の回想シーンから同じ合唱部だった仲間たちの世界の中心は学校であり、日野ちゃんだったことが分かるのに、日野ちゃんの中心には学校も友達もなかったことが突きつけられるこの言葉*1
日野ちゃんは自分が死んだことに微塵も後悔していませんでした。結局死の理由は明かしませんでしたが、直接の理由がどうであれ自分の生をコントロールしたかったのではないかなと思っています。日野ちゃんは最善のタイミングで生を終わらせた。生き返った時に「死ぬのは苦しいのに」と言いますが、あれはもう一度死にたくないという意味ではなく同じ方法でもう一度死ぬことしか考えていなかったということかなと。


幽霊は現世にいる人が想ってくれているから存在している。このことを聞いた時、自分が誰に想われているのか想像できなかった日野ちゃん。生き返って初めて自分が誰かの中に存在していて、みんなが勝手に自分の死にいろいろな理由をつけていたことを知るのです。そしてそれなら「汚くてどうしようもない理由」で死んだ自分に「美しい理由」をつけてほしいと頼む。これは彼女を自分勝手に生き返らせてしまった友達に対する救いにも、周りの想いを知らずに汚くてどうしようもない理由で死んでしまった自分に対する救いにもなってるんですよね。無理矢理にでも美しい理由をつけてもらえたことでキッパリともう一度死ねたんだと思いました。最初の死と2度目の死は全く違う。生き返った意味が生まれたことに何だかホッとしました。


生と死は紙一重で、人はいつでも死んでしまう。それは劇中に出てきた「人は忘れられると生きていても死んだも同然」という言葉の意味でも、本当の意味でもです。それでも出会ったのであれば誰かのどこかには残り続けるんだと思います。人は出会っただけで思った以上に影響し合っている。自分の世界からしか他者の世界を見ることはできないからそれを理解することは難しいけど、それもふまえた上で他者の世界への想像力を持つことは大事だなぁ…なんてことをこの舞台を観て考えていました。


セリフとか歌の歌詞とかもっとちゃんと知りたいな。印象的な言葉はたくさんありましたが、いかんせん1回しか見てないので忘れてしまったよ…(笑)
今回は一番感情移入した日野ちゃん側からいろいろ考えたけど、他の子の視点でもまた観たいなぁ。映像化してほしいー。

乃木坂メンバーへの感想

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じわじわくる面白さ。変なことを普通のテンションでやりきることができるのは素晴らしかったです。あれだけ変な佇まいでも「おかしな人」ではなくて気弱で繊細な人間味もきっちり見えたりして。初舞台ということでしたが、顔立ちも声も舞台向きだと思いました。これからいろいろな経験ができるといいなぁ。

かわいくて明るくても何か心の中に抱えている役が似合いすぎていて。オープンなのに入り込めない。そんな雰囲気を醸し出すのが本当にうまいなぁと思います。どう舞台上に存在していればいいのか悩んだだろうなと思いますが、ちゃんと自分のものにしていましたね。今度はただただ素直で明るい役とかもっといろんな芝居を見てみたいな。

この物語の中で一番素直で真っ直ぐである意味空気が読めない役。普段の井上さんの印象と被る部分が多くて適役だなと思いました。ただその分演技がどうだったかあんまり分からない部分もあるけど、とても自然に存在していたなと思います。

一番かわいらしくて女子高生らしい役。「すべての犬は天国へ行く」や「じょしらく」の時はがんばって空回りしている部分があったけど、今回は普段の優里ちゃんのキャラとも合っていてとてもよかったです。やっぱり優里ちゃんの明るさや愛嬌は他の乃木坂の子達にはない武器だよね。

とても落ち着いているけれど、もしかしたら一番日野に救われていたのかもしれないビンゼ。少し離れて仲間たちのことを見ながらとても大切に想っている感じがよく出ていました。大人だからこそ見えすぎて困ったりとか、他の子の素直で真っ直ぐな感じがうらやましく思えたりとか。新内さんだからこそできるビンゼだったなぁと思います。最後のセリフもとても清々しく響いて好きだったな。

本来の自分とかけ離れた役を演じていたと思うのですが、声のトーンや仕草などとても考えて「ジモ」として存在しようとしてるのが伝わってきてよかったです。ほんとかわいらしくて抱きしめたかった。この舞台は絢音ちゃん目当てで観に行ったので、最後ジモだけが舞台に残って終わるのうれしかったな〜。誰かを演じるということを楽しんでいるように見えたし、もっと絢音ちゃんの演技が見たいと思いました。

高校生なのにビール飲んでたり結構破天荒でセリフもなかなか過激でしたが、やっぱり安定感があってうまいなぁと感心しながら見ていました。能條さんなら何でもやってくれるっていう安心感。後半の真面目でしっかりした部分もキャラがブレることなくスッと入ってきたのもさすがでしたね。

ヤンキーっぽくて言葉遣いは荒いけど真っ直ぐで優しい。樋口さんもうまかったとは思うのですが、あまりセリフの印象が残っていないというのが正直な感想です。何でだろうな。外見や言葉遣いのインパクトに引っ張られてチョロの本当のキャラがイマイチ見えにくかったからかな。また違う役柄で見てみたいですね。

*1:それまでの日野ちゃんの言動から察しがつくことではあったので、この言葉を言った瞬間「言っちゃったよー!」ってちょっとうれしくなってしまったんだけれど。